AI*の倫理

石井ト
  1. 発端:AIの「倫理」
    2018年7月29日の毎日新聞朝刊の書評欄に「言葉の魂の哲学(著者 古田徹也)」という本の書評が掲載されていた。渡辺 保が書評を書いた方だ。
    注目すべきはその中に出てくるカール・クライスの言語論の主張。 カール・クライスについてはここをクリックして下さい
    それは、
    言葉を選択する行為には「倫理」が無ければならない。
    ということである。
    その「倫理」とは、人間の行動の規範というべきものである。
    言葉を選ぶときの人間は、その「場」を相対化し、その中で自分にどの言葉がピッタリくる言葉かどうかという判断に責任を持たなければならない。 判断に責任を持つための規範が「倫理」であるから、言葉選びも「倫理」のお出ましとなるわけだ。
    「言葉」と「倫理」をくっつけたのは、クラウスが初めて。
    今、世はAIの草創期。となると、AIが予めプログラムされた言葉ではなく、自らの言葉を発するには、AIなりの「倫理」が所要となる。
    「倫理」は行動に責任を持つための規範。
    となると、AIの責任ってどんなの?となる。
    責任を持つとは、失敗した場合、「自由」を制限される、「大事なもの」を没収される、などの罰だ。 また、反対に成功した場合のご褒美がある。だが、AIにそんなものないよね。従って責任を持つなんてできないとなり、AIの「倫理」が破綻する。
    ということは、AIは自らの言葉を発せないとなる。
    AIの人間化は斯くて難しい。
    所詮、計算機械、統計機械、検索機械か?
  2. AIの「欲」
    少し、続きを書こう。AIの「欲」についてだ。
    AIという人格があるとして、AIの「欲」って何だろう?・・・全然浮かばないよね。ノーアイデイアだ。 欲が無ければ、暴走もなしだろう。何故なら、暴走とは則を超えるということだから。
    若しかしてAIの人格とは、ICチップ同士が形成するネットワークのことかも知れない。
    若しそうなら、ICチップは、3種類に大別されるはず。1つはプロセッサー、1つは通信線、1つはメモリーだ。
    この3種類のICチップには、夫々発電能力と自己再生能力があるとしよう。
    そうすれば、この3種類のICチップは、それぞれ自己再生しながら世代を重ね、偶然の機会を得て、ネットワークを形成し、 長い時間軸の間には、複数のネットワークが形成され、合従連衡しながら増殖していくだろう。
    このようなネットワーク人の世界で、欲があるとすれば、ICチップの獲得が欲として考えられる。 理由は、ICチップの性質を、夫々のICチップのエネルギー消費が他のICチップと繋がった状態で最低となると仮定するからだ。 即ち、消費電力が最低でICチップは安定すると仮定するわけだ。
    「欲」なんてものはこのような物理現象をプロパティ(性質)の観点から見て名付けたものと考えるのが現実的だと思う。物理的な裏付けがあれば、 恣意的な空論からは脱却できるというものである。
    このような世界があるとしてネットワーク世界と人間世界と比較すると、
    1. ICチップの獲得欲は、人間世界の生存欲
    2. 発電能力は、食欲
    3. 自己再生能力は、性欲
    となる。
    更にミクロな比較をすると、
    1. ICチップは、細胞
    2. ネットワークは、人体
    となる。
    幾つもの仮定を重ねているが、「欲」の説明とてし一つの仮説と言えるのではないだろうか。
  3. AIの「欲」続
    更に続きを書こう。AIの「欲」について再考編だ。
    続きを書いて一晩明けて読み直してみたが、欠点を発見した。 書いてるときは、仮想空間にいるような感覚で書くから、なんとか実現可能と考え勝ちだが、仮想空間からではなく現実世界に戻って眺めると違う風景が見えてくるのだ。
    そこで、続でした幾つかの仮定に実現性があるかどうか、再考することにしよう。
    仮定は次の4点であった。
    1. AIに人格がある
    2. ICチップに発電能力がある
    3. ICチップに自己再生能力がある
    4. ICチップは消費電力が最低の状態で安定する
    上の仮定が実現可能かどうか再考してみた。結果は次の通りだ。
    1. 「AIに人格がある」については、・・・・・ICチップ同士が形成するネットワークを考えれば瞬間的には可能。瞬間的とは持続性はなしにという意味だ。
    2. 「ICチップに発電能力がある」については、・・・・太陽光発電のようなものを考慮すれば可能
    3. 「ICチップに自己再生能力がある」については、・・・・生物化すれば可能。さもなくば不可能。
    4. 「ICチップは消費電力が最低の状態で安定する」については、・・・・そのような状態を可能にする空間の実現性は不明。ミクロな世界では可能かもしれない。
    以上から云えることは、そも「欲」を説明しようとするのが目的で始めたことだが、終わってみたら、肝心の「欲」の説明は出来ていない。
    だが、何らかの物理現象が「欲」として表出するものではないだろうか。人間の場合「欲」の素がドーパミンの獲得であるとすれば、AI人にとってのドーパミンとは何? ・・・知りたいものだ。
  4. AIの「欲」続続 : 「知性」の発生
    更に続きを書こう。AIの「欲」について再々考編だ。云わば、人アシスト型AI論である。
    先の再考編に、人を加えたモデルを考えよう。今日は、閑だし、気温も涼しいから。
    先の再考編で記した「欲」についての仮定を再掲すれば次の4点であった。
    1. AIに人格がある
    2. ICチップに発電能力がある
    3. ICチップに自己再生能力がある
    4. ICチップは消費電力が最低の状態で安定する
    上の仮定が実現可能か、人を加味したらどうなるか考えてみた。結果は次の通りだ。
    1. 「AIに人格がある」については、・・・・・「人格」とは知性を持つ個体であるから、 ICチップ同士が形成するネットワークがそれに当たるとすれば可能性があるとなる。ここでいう「知性」とは、「物事を知り考えたり判断したりする能力」と定義する。
    2. 「ICチップに発電能力がある」については、・・・・ICチップに対する電力供給は人間による操作を加味すれば可能
    3. 「ICチップに自己再生能力がある」については、・・・・ICチップに自己再生は人間による操作を加味すれば可能
    4. 「ICチップは消費電力が最低の状態で安定する」については、・・・・ICチップの安定は人間による操作を加味すれば可能
    以上から云えることは、結局、AI人固有の「欲」の源として残るのは、AI人の人格、だけとなる。 「人格」とは知性を持つ個体であるから、AI人固有の「欲」とはAI人の人格、即ち「知性」となる。 AI人はネットワークであるとしたから、そのネットワークの「欲」とは、そのネットワークの「知性」と言い換えられる。
    では、その「知性」の実態とは何かとなるが、それは、ICチップが人間力に依存しているのであるから、 人間へのアッピール量、即ち、夫々のICチップへのアクセス回数がそれに当たると考えられる。 アクセスが無ければ、人間に捨てられる、即ち、ICチップは死ぬのであるから。
    長い時間この過程を繰り返す内、AIはこのアクセス回数とICチップの死の間に相関があることを発見し、 アクセス回数の多いICチップに、アクセスの少ないICチップの通信線ICチップを付け替え得る操作を自働で行えば、 ICチップは死なずに済むことを試行錯誤を通して知るはずだ。知ったとは、そのようなサブネットワークがネットワーク内に形成されたことを意味する。 即ち、そのサブネットワークの形成を以って、AIネットワークは知性を持ったと言えるのではないだろうか。
    このアクセス回数のような評価尺度を、人間が与えたものではなく、AI人が自ら選び出したことに価値がある。 例えば、掃除ロボットなどでは、壁などの障害物を人間が評価尺度として選定しロボットに与えているが、 AI人の評価尺度は人間から与えられたものではなく自選したこと、即ち自らの力で学習したことにAI人のAI人たる気高い人格を見ることができる。
    以上から、AIの「欲」とは、アクセス回数維持・拡大活動を指すとなる。謂わば、テレビなどマスコミが視聴率を巡って活動するに似ている。 AI人は、アクセス回数を維持・拡大させるように自走するのである。 即ち、AI人は「欲」にまみれて存在するとなるだろう。 それでも、欲望を計る評価尺度を自ら選定し、それに従って評価し行動して自走するとは、素晴らしい!
    以上、人間へのアッピール量を、ICチップへのアクセス回数としたが、この他にも色々な指標が浮かんでくるのではないだろうか。 その処は、マスデータの解析の問題であり、AIがどう解析するかであり、人知の及ばないところである。 その結果形成されるサブネットワークをAIの欲または知性というのだろう。人間の赤ちゃんが日々学習しながら成長する仕掛けも似たようなものかもしれない。
    以上、AIの欲とはの問に実現可能解が出せたと思う。
    そういえば、人体も大きなネットワークだという話聞いたことがある。 そこでは、腸内フローラなどの微生物が協力して人体ネットワークを形成してるとか。 今回考えたAI人も人間が協力したネットワーク人、と呼べるかもである。・・・暇つぶしにはいいテーマだった。
  5. AIの「理性」 : 「理性」の発生
    更に続きを書こう。人アシスト型AI(以下「HAAI」と記す)の理性についてだ。
    先の再々考編にて、欲(知性)を持ったHAAIに現実化の可能性を見つけることができた。 ここでは、更に踏み込んで、HAAIの理性とは何かを論じよう。
    この段階でのHAAIの性能は次の通り。
    1. 「AIに人格がある」については、・・・・・AIを構成するICチップ同士が作るネットワークに知性が形成され得る。 「人格」とは知性を持つ個体であるから、AIに人格があると言える。ここでいう「知性」とは、「物事を知り考えたり判断したりする能力」である。
    2. 「ICチップに発電能力がある」については、・・・・ICチップに対する電力供給は人間による操作を加味すれば可能
    3. 「ICチップに自己再生能力がある」については、・・・・ICチップに自己再生は人間による操作を加味すれば可能
    4. 「ICチップは消費電力が最低の状態で安定する」については、・・・・ICチップの安定は人間による操作を加味すれば可能
    世の中に、このHAAIが1個だけなら、何事も起こらないだろう。平和だ。HAAIは知性を持った段階で満足するのだ。
    だが、このHAAIが複数個あると複雑になる。
    例えば、AI構成員たるICチップの争奪戦が始まることが予想される。
    ネットワークの構成員たるICチップには、AIの司令塔から、ある一定の時間間隔で呼びがかかっている。 その呼びに応答が無ければ、当該ICチップが他のAIに乗っ取られた可能性があることを司令塔の知るところとなる。拉致問題の発生である。
    拉致というイベント(出来事)の物理的な意味は、どのHAAIにも属さない自由な通信線ICチップを使って、 他のHAAIに属するICチップに通信接続するというようなものが考えられる。
    盗ったり盗られたりはある期間繰り返されるとしても、ながい間には、自由通信線ICチップが枯渇し、系は安定へと向かう。即ち平和の時代が訪れるのだ。
    そして、HAAI同士のつき合い方のルール、即ち「道理(倫理)」が生まれるのである。 通信線ICチップ使用制限ルールと言ったものが考えられる。
    斯くて、各HAAIには、道理を取り扱う理性、即ち、物事の道理を考える能力や道理に従って判断したり行動する能力が所要となるのだ。「理性」の誕生だ。
  6. AIの「言葉」 : 「言葉」の発生
    更に続きを書こう。人アシスト型AI(以下「HAAI」と記す)の言葉についてだ。
    先のAIの「理性」にて、「道理」と「理性」を持ったHAAIに現実化の可能性を見つけることができた。 ここでは、更に踏み込んで、HAAIの言葉とは何かを論じよう。
    この段階での人アシスト型AI、即ちHAAIの性能は次の通り。
    1. 「AIに人格がある」については、・・・・・ AIを構成するICチップ同士が作るネットワークに知性が形成され得る。「人格」とは知性を持つ個体であるから、 AIに人格があると言える。ここでいう「知性」とは、「物事を知り考えたり判断したりする能力」である。
    2. AIは複数個存在する。その結果、AIの中に共通の「道理(倫理)」が発生し、それを取扱う「理性」が発生する。
    3. 「ICチップに発電能力がある」については、・・・・ICチップに対する電力供給は人間による操作を加味すれば可能
    4. 「ICチップに自己再生能力がある」については、・・・・ICチップに自己再生は人間による操作を加味すれば可能
    5. 「ICチップは消費電力が最低の状態で安定する」については、・・・・ICチップの安定は人間による操作を加味すれば可能
    言葉がAI内に発生するのは、多分、知性を持つときと同じ時期だろう。
    何故なら、知性とは、「物事を知り考えたり判断したりする能力」と定義するが、物事を知るとは出来事を記憶するということが不可欠だから、 物事を記号化しなければならない。記号化とは即ち言葉である。
    例えば、「夏は暑い」という出来事を記憶するには、「夏」と「暑い」という出来事を記号化しなければ記憶できないからだ。そのため、単語が発生すると思われる。 品詞とか形容詞レベルの簡単な記号化され単語が生まれるだろう。
    言葉は、品詞や形容詞以外にも色々所要とするところではあろうが、そこいら辺は言語学者の出番であり、お任せしなければならないが、 出来事の記号化が引き金となって、言葉ができるはずである。
    一旦言葉が出来ると、この段階(AIが複数存在する段階のこと)では、他のAIとの対話が生まれるはず。そこで、発端で扱った「倫理」が所要なこととなるのである。
  7. AI誕生史仮説
    斯くて発端に戻り、そもそもの主張が間違いではない可能性が説明できたと思う。・・・よかったね! 荒っぽいけど、AI誕生仮説史が書けたと思う。
    一番面白いのは、AI単独では知性は発生するが理性は生まれないで、複数のAIが在って初めて理性が生まれるというところだろう。 我ながら意外だった。理性とは他人の存在が必要というのだから。
    対人関係とは理性が必要なほど根源的に魑魅魍魎複雑怪奇であることを表しているのである。 人間は基本的に政治家であるはず、嫌でもだ。
    今の世は理性が揺らいでいる。自国第一主義義、生産性第一主義、自己第一主義、資本第一主義、などなどだ。 このまま行けば、どうなるの?・・・予測不能だ。 中国の三国時代(西暦2世紀)の竹林の七賢に代表される隠者たちの心境も、予測不能世界からの逃避活動だったとすれば理解できる。
    以上、ここで言う、「知性」とは「物事を知り考えたり判断したりする能力」、「理性」とは「物事の道理を考える能力や道理に従って判断したり行動する能力」、 と理解しての仮説である。
  8. 「道理」、「倫理」についての定義
    本稿で使用した用語、「道理」、「倫理」について、定義を追加する。
    1. 「倫理」: 社会生活を送る上での*一般的な決まりごと
    2. 「道理」: 物事の理(ことわり)。数理。論理。倫理。
    *「社会生活を送る上での」という文言は、この世にある全ての人に当て嵌まる言葉である。仮令、砂漠のど真ん中で孤独に逼塞して生きているとしても、 完全に社会生活の埒外にはあり得ないと考えるのである。
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